WILL-CAN-MUSTを「機能させる」ための実践論【前編】

WCMは、三つの円を埋めるためのフレームではない
WILL-CAN-MUST(以下、WCM)は、目標設定やキャリア形成で広く用いられるフレームワークです。しかし、現場では「WILLを聞いたものの、その後どう扱えばよいか分からない」「シートを埋めたが、日々の業務は変わらない」ということが少なくありません。
その理由は、WCMを三つの要素を整理するためのフレームとして扱い、三要素の接続を設計していないからです。
私がWCMを扱う際に最も重視しているのは、WCMを「業務推進とメンバー育成を一つの仕事の中で同時に実現するための設計図」と捉えることです。つまり、組織が求める成果と、メンバーが得たい成長を、日々の仕事の中で結び直すことが目的です。
WCMは「モチベーション施策」ではなく「業務設計」である
WCMは、メンバーのやりたいことを尊重し、モチベーションを高める手法として語られがちです。もちろん、メンバーの意思を尊重することは重要です。ただし、組織の中で扱う以上、WILLだけを肯定しても、メンバーにとって良い状態はつくれません。
組織から評価されない活動に力を注ぎ続ければ、メンバーは努力しているにもかかわらず、成果や評価につながらず、かえって疲弊します。「いいですね」と受け止めるだけで、CANやMUSTとの接続を設計しない状態は、メンバーを尊重しているように見えて、実際にはメンバーに結果を返せないことにもつながる恐れがあります。
目指すのは、組織に必要な成果が進み、その仕事を通じてメンバーの力が伸び、結果として評価にもつながる状態です。WCMの価値は、この循環を仕事の中につくることにあります。

<WCMの基本構造>
WCMは、「WILL」「CAN」「MUST」の三つから構成されます。
- WILLは、メンバーが仕事を通じて実現したい状態や向かいたい方向です
- CANは、現在保有している力、今後伸ばす必要がある力です
- MUSTは、組織から求められている成果・役割・業務です
業務を進めるだけであれば、MUSTだけでも動くことはできます。しかし、MUSTの中にメンバーのWILLとCANの接続点を設計できると、仕事は「与えられたもの」から「自分のWILLの実現や成長につながるもの」へと意味が変わります。WCMは、その意味づけを偶然に任せず、意図的に設計するためのフレームといえます。
WILLとは何か――「立派な夢」でなくてもいい
WILLは三要素の中で最も言語化が難しい領域です。管理職からは「聞いても出てこない」、メンバーからは「特にない」「まだ分からない」という声がよく聞かれます。
ここでまず分けて考えたいのは、WILLそのものと、会社の対話で扱うWILLの範囲です。WILLは本来、好きに描けるものであり、仕事に関係しないような内容も含めて自由で良いものです。一方、マネジメントで扱う際には、「今の仕事や今後のキャリアを通じて、どのような状態を目指したいか」といった形で範囲を設定することをまずはお勧めします。あまりにも仕事とかけ離れていると日常業務との接続が非常に難しくなってくるためです。
また、WILLは大きな夢や確固たる志である必要はありません。「今できていないことを、できるようになりたい」「もう少し自信を持って○○できるようになりたい」など、どのような内容でも本人が実現したい!と思える内容であれば、それは十分にWILLです。
WILLは「掘り起こすもの」であると同時に「育てるもの」
WILLが出てこない背景には、考えたことがないだけでなく、言葉にすることへの怖さがあります。「たいしたことないと思われるのではないか」「一度口にすると、それだけに向かっていかなければならない気がする」「ほかの可能性を閉じるのではないか」といった不安です。
そのため、はじめの対話では「正解はない」「変わっても良い」「キーワードでも良い」といった前提を伝え、言葉にするハードルを下げることが重要です。最初から完成された言葉を求めず、仮置きするぐらいの気持ちでも良いのです。
WILLのヒントは、これまでの経験の中にあります。これまでの人生の中で充実したことだったり、会社に入社する際に持っていた想いだったり、先輩や上司から影響を受けたことなどです。どのような自分になっているとワクワクできるか、そんな視点で掘り下げていけると良いでしょう。また、一人では言語化が難しくとも、誰かとの対話の中で気づき、言葉になっていくことはよくあります。第三者の視点で、質問や感じたことを伝えることが言語化の支援につながります。
また、WILLは、一度の面談で発見して完成させるものではありません。過去の経験を振り返り、言葉にし、仕事を経験し、またアップデートしていく。その反復によって少しずつ輪郭が生まれます。管理職には、WILLを聞き出す力だけでなく、変化を前提に一緒に育てる姿勢があると良いでしょう。
CANとは何か――成長の設計材料
CANはメンバーの「強み」「課題」です。知識、スキル、経験といった職務遂行能力に加え、持ち味・資質にも目を向けることも大切です。成果の出し方や周囲との関わりなどに影響することが多いためです。また、職務経験が少ない人に対しては、より重要な位置づけとなります。
等級定義と接続すると、成長と評価の接続がより強くなる
CANはメンバーの「強み」「課題」です。知識、スキル、経験といった職務遂行能力に加え、持ち味・資質にも目を向けることも大切です。成果の出し方や周囲との関わりなどに影響することが多いためです。また、職務経験が少ない人に対しては、より重要な位置づけとなります。
CANは、メンバー認識と上司認識を重ねて精度を高める
CANは、メンバーだけでも、管理職だけでも正確には捉えきれません。メンバーは、自分にとって自然にできることを強みとして認識しにくいことに加え、管理職は評価上の不足に目が向き、課題を過大に捉えやすいからです。
したがって、「メンバーはどう認識しているか」「上司はどの行動事実からそう見ているか」を持ち寄り、共通認識をつくることが必要です。
MUSTとは何か――単なる業務一覧ではなく、成果責任の置き方
MUSTは、組織から任される仕事です。ただし、WCMで扱うMUSTは、担当業務をすべて列挙したものではありません。
WCMが機能するかどうかは、どのMUSTを接続対象として選ぶかで大きく変わります。メンバーの意向を叶えるためだけにつくるオマケ業務や評価への影響が小さい業務にWILLとCANを結びつけても、メンバーに返る成果は限定的です。そのため、メンバーが担う最も重要な業務やウエイトが大きい主業務に着目することを推奨しています。

WCMの三要素は、整理して終わるものではありません。三つの要素を仕事の中で接続することが「機能させる」ために重要です。メンバーにとって意味があり、組織にとって価値がある形で仕事を設計することができると、WCMは効果的なマネジメントツールになります。
後編では、三つの要素をどのようにつなげていくかを具体的にお伝えします。
